Yahoo!/Googleのニュースに掲載された記事から、2012年度に発生した飲酒運転で、運転者が女性(性別が記載されているか、明らかに女性名。性別不明の名前は除外)である事例26件を抜き出し、傾向を分析した。
データソースが、あくまでネットから採取できた記事に限られており、「マスコミが取り上げた事件」という偏り、件数が少ないという制約もあるが、いくつかの重要な傾向が確認できたので報告する。
年齢別件数
年齢 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 計 |
件数 | 7 | 8 | 5 | 6 | 26 |
同乗者あり | 1 | 3 | 0 | 0 | 4 |
事故あり | 7 | 5 | 2 | 6 | 20 |
死亡事故 | 1 | 1 | 1 | 1 | 4 |
逃走 | 4 | 1 | 0 | 0 | 5 |
依存の疑い | 0 | 2 | 3 | 5 | 10 |
事故(検挙)発生時間
午後(12~0時) | 午前(0~12時) | ||
昼 | 夜 | 未明 | 朝 |
12時~17時 | 17時~0時 | 0時~5時 | 5時~12時 |
4 | 6 | 9 | 7 |
10 | 16 |
事故(検挙)発生時間と年代の関係
– | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 |
昼 | 0 | 0 | 2 | 2 |
夜 | 0 | 4 | 0 | 2 |
未明 | 5 | 2 | 2 | 0 |
朝 | 2 | 2 | 1 | 2 |
I 女性の飲酒運転の特徴
年代は20代から50代まで、万遍なく分散している。
発生時間帯も昼が少なめである以外は、大きな偏りがない。
ところが、年代別に傾向を見てみると、いくつかの特徴が浮かび上がってきた。
1.年代別にみた傾向
・20代の特徴は、未明の事故(検挙)と逃走。
・30代の特徴は、夜の事故(検挙)と子どもの同乗。
・40~50代の特徴は、昼の事故(検挙)とアルコール依存傾向。
2.若者の飲酒事例にみる性差
本調査と並行して行なった「若者の飲酒運転事例の分析」(17歳~25歳、79人中男性74人、女性5人)と比べると、明らかな違いがある。
一緒に飲んだ仲間を同乗させた事故が少ないことである。飲み仲間を同乗させての無謀運転は、若い男性に特徴的な行動パターンのようだ。
唯一のケースが、「女友達をミニバイクの後ろに乗せ、警察に停止を求められて逃走し、電柱に衝突して同乗者が軽傷を負った大学生のケース」で、若い男性と類似のパターンがみられた。 一方、20代男女の類似点は2つあった。
1つは、未明から朝にかけての事故。直前まで飲んでいての事故が多いようである。
2つ目は、逃走。男性同様、アルコールによる理性のマヒに、若さゆえの短慮が重なって、最悪の行動をとってしまうのか。
若者向けの対策が必要であることが、女性の事例分析からも明らかになった。
20代の事例
21 | 大学生 | 2:05、ミニバイクで信号無視して右折、警察が停止を求めたが逃走。約300メートル北西で電柱に衝突。同乗者(27)が軽傷。2人で自宅で飲酒、カラオケ店に行った帰り。0.25㎎/l |
21 | アルバイト | 9:05、交通整理をしていた男性警備員をひき逃げで死亡させた。車にへこみなどがあることに気付いた母親に伴われて出頭。「朝方まで友人と酒を飲んだ帰りだった」 |
24 | 飲食店店員 | 3:00、酒気帯びで追突事故。 |
24 | 小学校講師 | 3:00、男性をはね、腰の骨を折る重傷を負わせて逃走。7時間後に自首。その時点でアルコールは検出されなかったが、「酒を飲んでいたので怖くて逃げた」「バーで友人とビールを飲んだ」 |
25 | 無職 | 7:20、渋滞で停車中の車に追突。0.35㎎/l。10分前にも別の車に当て逃げしていた。「市内の店で午前1時半すぎから朝までビールを5~7杯飲んだ」 |
27 | 歯科助手 | 2:30、停車していた車に追突し、玉突き事故。ぶつけられた車の男性2人が軽傷。 |
27 | 記者 | 0:55、酒気帯びで、交差点で信号待ちのタクシーに追突。タクシー運転が軽傷。 |
3.子どもの同乗
数は少ないが、30代女性で子どもを乗せての飲酒運転が2例あったのが気になる。これは子どもの生命を危険にさらす虐待であり、認識を広めなければいけない。
31歳の巡査長のケースは、アルコール依存症が強く疑われる。
子どもを同乗させた事例
31 | 警察巡査長 | 18:40、前走車に追突。飲酒検査を求められると生後5ヵ月の長女を抱え逃走。転倒した時に長女を放置して逃走し、取り押さえられた。育児休暇中で「育児のストレスで、夫に隠れて酒を飲んだ」。未明と午前中に、自宅で缶入りサワー数本を飲んだ。 |
37 | 派遣社員 | 20:20、子ども4人を乗せ、交差点の中央分離帯に衝突した。飲食店で夫や知人夫妻らと食事をしていたが、知人らより先に子どもたちと知人の車に乗り込み、運転を始めた。 |
若い男性の事例の中に、子ども同乗の事故が2例(どちらも6月24日)あるので付記する。
(1)神戸の例…20歳の父親(塗装工)が助手席に妻、後部座席に2ヵ月の長男を乗せて、前走車に衝突したもの。妻は重体、子どもは無事だった。父親は自宅でビールや焼酎、ウオツカなどを飲んで、約2時間仮眠とり、夜中の1:00に近くのスーパーに向かう途中で事故を起こしている。
(2)札幌の例…26歳の父親(会社員)が23:00頃、2人の子どもを乗せて電柱に激突したもの。1歳の次男が車外に投げ出されて死亡。4歳の長男も怪我。父親は昼から公園のバーベキューと知人宅で、ビール10缶以上飲んでいた。帰宅の際は、飲酒していない妻が車を運転していたが、夫が車内で暴れ出したため、妻は路上に車を停車、助けを求めるために車外に出たすきに、夫が運転。
どちらの例も、親の飲酒問題が背景にありそうだ。
4.アルコールへの依存傾向
不十分な記述ではあるが、飲酒行動の異常、大量飲酒、高い酩酊度など、アルコールへの依存傾向が疑われるケースを抜き出したところ、26件中10件と4割に迫った。年代が上がるにつれて増え、50代では6件中5件にのぼる。より詳細な記述があれば、もっと増えるかもしれない。
アルコール依存傾向が疑われる事例
31 | 警察巡査長 | 18:40、前走車に追突。飲酒検査を求められると生後5ヵ月の長女を抱え逃走。転倒した時に長女を放置して逃走し、取り押さえられた。育児休暇中で「育児のストレスで、夫に隠れて酒を飲んだ」。未明と午前中に、自宅で缶入りサワー数本を飲んだ。 |
34 | 飲食店経営者 | 6:00、酒気帯び検挙。0.35㎎/l。飲酒運転で免許取り消し中のため無免許。「居酒屋で飲んだ」 |
42 | 無職 | 14:25、交通取り締まり中の警察官が、シートベルト未着用で職質。無免許、酒気帯び。 |
43 | 自営業 | 男性と口論になり警察が仲裁。数時間寝た後で、6:05、「仲裁が納得いかない」と酒に酔って交番に乗り付けた。0.3㎎/l。「発泡酒や梅酒などを飲んだ」 |
43 | 医師 | 23時半頃、自宅で1人で缶酎ハイ1本にウオツカを混ぜて飲酒。翌2時頃、車を運転しコンビニへ行き自宅に戻る途中、蛇行運転で職質。0.35㎎/l。 |
51 | 教諭 | 17:50、停止していた車に追突して軽傷を負わせた。0.7㎎/l |
52 | アルバイト | 15:00、停車中のバイクに追突。0.4㎎/l。「30分前に家で缶チューハイ1本を飲んだ」 |
57 | 看護師 | 7:25、出勤時にガードレールに接触したうえ、住宅の花壇に衝突し外壁にも接触。前夜7時頃、自宅での夕食でワインをグラスで2杯飲み、眠れないため深夜0時頃から2時頃にかけて再びワインを2杯飲んだ。 |
59 | パート | 16:00、車と出合い頭に衝突。搬送先病院で飲酒検知の際、記録紙を口に入れ飲み込もうとした。 |
59 | 保育園調理員 | 7:50、勤務先に向かう途中、ガードレールに衝突し転倒。0.55㎎/l。前夜18時~午前2時頃、自宅で焼酎コップ6杯ぐらいを飲んだ。 |
II 女性の飲酒事故防止のための対策
女性ドライバーが数少なく、女性の飲酒率も低かった時代には、女性の飲酒運転はほとんどみられなかった。しかし時代は変わった。女性の飲酒率が高まり、女性ドライバーが増加したのだから、女性の飲酒運転が増加するのは道理である。
しかも、女性には飲酒運転にからんで以下のハンデがある。
・男性と同量のアルコールを飲んだとしたら、体が小さい女性のほうが血中濃度は高くなる。しかも女性ホルモンの影響もあって、分解により多くの時間がかかるから、飲酒運転が起きるリスクは高い。
・女性は男性の半分の期間でアルコール依存症になるといわれる。この病気の根幹は「飲酒のコントロール喪失」であるから、日常的に運転する場合は、飲酒運転が起きてしまう。
・多量飲酒の習慣があり、日常的に運転する女性が子育て中であったとしたら、子どもを飲酒運転の車に同乗させ危険にさらすおそれが高まる。
上記を踏まえ、女性特有の諸々のリスクや、健康日本21の指標(女性は1日平均純アルコール20g以上で生活習慣病のリスク)などを、教育・保健医療・職域など多くの場で啓発することが急務である。普通免許学科教習の中でも、女性ドライバーに対して強調してほしい。
加えて、飲酒問題をもつ人への介入施策を、さまざまな方面から進めることが欠かせない。 今回の調査からも、アルコール依存傾向が疑われる女性の飲酒運転事例が相当数あることが浮き彫りになった。日本において、女性の依存症問題は目の前の現実である。予防、早期発見、周囲からの介入、断酒をベースにした治療、社会復帰と再発予防など、専門的なケアが必要である。