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薬物乱用・依存

アルコール

ビール、ワイン、ウイスキー、日本酒、焼酎、リキュールなどは、いずれも「エチル・アルコール」が主成分。合法的に市販されているが、れっきとした依存性薬物だ。
なお、20歳未満の飲酒は成長期の心身に大きなダメージを与えるため法律で禁じられている。

作用はヘロインなどのモルヒネ型薬物に似て、身体依存性が高く、離脱症状は激しい。
臓器への急性・慢性毒性があり、急性アルコール中毒で死に至ることも。慢性毒性としては、肝臓病や脳の萎縮をはじめ、すい炎や糖尿病、骨粗しょう症、がんのリスクも高まる。多量の飲酒によって、身体は病気の見本市のようになってしまう。

未成年者にとっては、違法薬物へと移行するきっかけになる入り口のドラッグでもある。違法薬物を転々と使用した後に再びアルコールへ戻るという最終のドラッグにもなっている。
アルコール依存症

睡眠薬、抗不安薬など

医師から処方される睡眠薬、抗不安薬、鎮痛薬などで、依存を起こしやすい薬がある。
その中心はベンゾジアゼピン系の薬物だ。これらは抑制剤であるが、覚醒作用があるリタリンも乱用が大きな問題となった。
複数の医師にかかるなどして処方量を超えて服用し依存を進行させていくケース、また乱用目的の非合法な流通もある。

なお、薬局で市販されている薬にも、覚せい剤に近いエフェドリンやモルヒネに近いコデインなど、依存性のある薬物が含まれている場合がある。
症状がないのに市販薬を服用すること。規定量をオーバーして服用すること。このどちらも薬物乱用である。
症状があるときでも、市販薬を3日間服用して症状が改善しなければ、いつまでも服用せずに、医療機関を受診する必要がある。
乱用されやすい市販薬としては、ブロンなどのせきどめ薬、パブロンゴールドなどの総合感冒薬、セデスやナロンエースなどの鎮痛薬が報告されている。

せきどめ薬

合法的な市販薬。主成分は、塩酸メチルエフェドリン(エフェドリンは覚醒剤の原料)と、リン酸ジドコデイン(コデインはモルヒネ型の薬物)。1980年代半ば、製品のひとつ「ブロン」の乱用が問題化した。現在、この製品からはエフェドリン成分が除かれており、2000年には、ブロン液の濃度が二分の一に薄められる処置がとられた。

カフェイン

コーヒー・紅茶・緑茶・コーラ・チョコレートなどに含まれるカフェインは、中枢神経を刺激して興奮させる薬物としての作用をもつ。
古くから嗜好品として親しまれてきたが、エナジードリンクや栄養ドリンクなどカフェインの作用を中心にした飲料が現われ、加えてカフェインの錠剤が安価で購入できるようになったことで、依存症や急性中毒の問題が表面化した。

カフェイン飲料や錠剤は、眠気覚まし、集中力向上などを求めて使用されることが多い。これは、いわば「元気の前借り」。効果が切れると、頭や体がだるくなる。しだいに効き目が悪くなり、量が増える。
過剰摂取は、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、イライラ、震え、緊張感、不眠、頭痛などを招く。下痢や吐き気、嘔吐で脱水症状も。意識低下や心臓血管系への負担もあり、救急搬送や死亡例が多数報告され、社会問題化している。
試験勉強中の子どもに、親が安易にエナジードリンクを与えるなど、危険性が知られていないため、身近な依存性薬物としての啓発が必要である。

妊婦が高濃度のカフェインを摂取すると、胎児の発育を阻害(低体重)する可能性も報告されている。
なお若者の間で「レッドブルウォッカ」など、エナジードリンクとアルコールを混ぜて飲むことが行なわれているが、非常に危険である。それは、興奮作用のあるカフェインがアルコールの抑制作用(酔い)を感じなくさせるためで、米国疾病予防管理センター(CDC)は、アルコールだけに比べて3倍飲み過ぎた状態になると注意喚起している。死亡例もある。
カフェインの摂取量について日本にはまだガイドラインがないが、海外ではエナジードリンクの未成年への販売を禁じる動きもある。

覚せい剤

メタンフェタミンとアンフェタミンがあり、通称「シャブ」「スピード」「エス」「冷たいもの」「クリスタル」などと呼ばれている。メタンフェタミンを「赤ネタ」と呼ぶこともある。
日本でもっとも乱用されている違法薬物で、やせ薬、セックスドラッグ、集中力を高める薬としてすすめられることも。粉末のほか錠剤やカプセルがあり、吸引(あぶり)、注射(ポンプ)、粉末を飲み物に溶かすなど、さまざまな形で摂取する。

覚せい剤は、第二次世界大戦中、特攻隊の出撃時や軍事工場での労働効率をあげるために使用され、戦後、乱用が問題化。1951年「覚せい剤取締法」で使用・売買・所持が禁止された。1990年代に入り若者の使用が急増し、第三次覚せい剤乱用期に突入している。

興奮作用が強いため、眠れなくなり、その反動で切れたときの虚脱感(いわゆるつぶれ)が激しい。そのギャップに耐えかねて使用が進むケースが多い。
誰かに悪口をいわれているような空耳や錯覚、何となく人からつけられている感じが出てくる人もいる。これが、ひどくなると、幻聴や被害妄想という形になることもある。
ただ、こういう体験をした人は覚せい剤が怖くて次には使えなくなることが多い。むしろこういう体験をしない人が覚せい剤を常習的に使うようになり、覚せい剤に脳をハイジャックされ、行動や思考が支配されていってしまう。

大麻(マリファナ)

麻(アサ・大麻草)の葉や花冠を乾燥させたり、樹脂など加工したもの。葉の部分は「マリファナ」「クサ」「ガンジャ」「ハッパ」、大麻樹脂は「ハシシュ」「チョコ」などと呼ばれる。パイプあるいは煙草に混ぜたりしてペーパーで捲く喫煙摂取が主。品種改良により麻酔成分(THC)を強めたマリファナも出回っている。
危険ドラッグの規制強化により、大麻の乱用が増加しているとの報告もある。

大麻の害としては学習や記憶など認知機能の障害、注意力などの障害があり、「無動機症候群」といって、大麻をやめて何年経っても、何もやる気がせず、部屋にこもりきりの状態で過ごすようになってしまう例もある。
精神依存のみで耐性形成や身体依存性はないと言われているが、これに疑問を呈する専門家もいる。また、日本ではほかの違法薬物への入り口となるケースも少なくない。
大麻には、音や色彩などの感覚が過敏になる作用があるため、アーティストが好んで使うことがあるが、それは薬物が創り出している幻想にすぎない。
海外では摂取後の運転による交通事故も問題になっている。

大麻をめぐる規制は国によってさまざまである。
日本では「大麻取締法」によって、所持・譲り受け・譲り渡し・無許可での栽培などが禁じられている。
ウルグアイでは2017年、密売組織に打撃を与えるために、大麻の販売が解禁された。ヨーロッパでは以前から、自治体により大麻の使用や所持を「非犯罪化」している国がある。アメリカでは現在、州のレベルで住民投票などを経て、医療用大麻だけでなく嗜好品としての大麻解禁が進みつつあり、カナダは2018年に先進国として初めて、嗜好品としての大麻の所持使用を合法化した。これらの政策は、大麻にまったく危険性がないからというよりも、未成年者から大麻を遠ざけるために、大麻の流通を政府が厳密に管理することを目的としている。

ヘロイン

モルヒネから合成された薬物。日本では1960年代に乱用が増加。鼻からの吸引、あぶり、注射などで摂取。
「麻薬及び向精神薬取締法」で禁止されている。

麻酔性、依存性はきわめて高い。多幸感をもたらす一方、倦怠感、悪心、嘔吐などが起こることも。離脱症状は、筋肉や関節に激痛が走り、悪寒や下痢に見舞われるなど激しいもので、短期間の使用でも現われる。

LSD

LSD(リゼルギン酸)は強い幻覚作用があり、急性精神毒性は非常に高い。「アシッド」「マイクロドット」の名で呼ばれることもあり、ミシン目を入れた切り取り式の紙に吸い取らせたものから、錠剤、カプセルなど形態はさまざま。「麻薬及び向精神薬取締法」で禁止されている。
ごく少量で感覚の混乱、幻覚、幻聴が起きるのは、脳の中で視覚情報と聴覚情報の混乱が生じるため。いわゆる「バッドトリップ」を体験して長期にわたる精神的ダメージを受けたり、フラッシュバックの出現もある。なお、LSDと似た作用を持つマジック・マッシュルームには、サイロシビンという成分が含まれており、「麻薬」に指定されている。

合成薬物(危険ドラッグを含む)

いわゆる「デザイナードラッグ」。違法薬物の分子構造の一部に手を加えることで法の網をすり抜けようとしたもので、元になった薬物より危険な場合もあり得る。90年代には「エクスタシー」(MDMA:アンフェタミンの合成薬物)が流行、「麻薬及び向精神薬取り締まり法」で禁止された。
2000年以降は「脱法ドラッグ」と呼ばれ、規制とのいたちごっこを続ける中で、毒性が強力になった薬物による交通事故や摂取による死が相次いだ。そのため2014年以降は「危険ドラッグ」として規制強化がはかられた。
>危険ドラッグについては『Be!』117号にくわしい記事が掲載されています
「危険ドラッグ<最前線> 治療・リハビリ現場は今どうなっているか?」

コカイン

鼻からの吸引、注射、吸煙などで摂取する。「麻薬及び向精神薬取締法」で禁止されている。作用時間が短いため、頻繁な使用から依存に陥りやすい。慢性毒性はかなり高く、コーク・バグと呼ばれる皮膚の内側を虫が這いずるような精神症状が生じることも。

シンナーやガスなど

いわゆるシンナーは「有機溶剤」と総称され、主成分はトルエン。本来は塗料など油性のものを「溶かして薄める」ことが目的の物質。吸引すると、脳を有害物質から守っている脂肪の膜を簡単に通り抜け、脳細胞を徐々に溶かしてしまう。「毒物劇物取締法」により吸引目的の所持・販売が禁止されているが、アルコールと並んで低年齢から始められることが多い。ただし現在では減少傾向にある。
シンナーの俗称「アンパン」に対し、ガスボンベやライターのガスは「ガスパン」。接着剤(ボンド)が吸われることもある。

いずれも幻覚・幻聴が出やすい。脳を酸欠状態にさせるほか、臓器への毒性、精神毒性が高く、ブラックアウト(薬物使用時に起こった出来事の記憶が部分的になくなること)や後遺症の出現も多い。

ニコチン

タバコに含まれるニコチンは、合法的に市販されている依存性薬物。20歳未満の使用は法律で禁じられている。
興奮作用を持つが、神経が興奮している状態では鎮静の効果をもたらす。作用時間が短いこともあり、反復使用に陥りやすい。アルコールや覚せい剤などと同様、中枢神経に作用して依存を引き起こす「薬物」である。
肺がんのリスクや、受動喫煙の害もあり、世界的に対策が進んでいる。
ニコチン(タバコ)についてくわしくは