ネットワークの結成
2016年7月、依存症の治療・回復の関係団体と専門家が「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」を結成しました。
ASKも発起人として加わっています。
結成の理由は、芸能人や有名スポーツ選手の薬物依存やギャンブル問題などをめぐって、偏見や無理解にもとづくバッシング報道が続いていることです。
誤解や中傷を振りまくのではなく、依存症という病気を正しく伝え、回復を後押しする報道が増えてほしい――。
その働きかけのため、まずは結成直後、TBSテレビ「白熱ライブ ビビッド」に改善申し入れを行ないました。
依存症の知識を持たないコメンテーターが、薬物で逮捕された有名人の人格を否定し、スキャンダラスに暴き、依存症者の言動をすべて否定的に解釈して伝える姿勢は、当事者と家族を深く傷つけ、回復や対策推進の妨げとなるからです。
「ガイドライン」を作ろう
その後も、薬物報道はエスカレートし、同年末には、覚せい剤取締法違反の疑いで「再逮捕の見込み」と報じられた芸能人の自宅にレポーターが殺到し、タクシー内でのドライブレコーダーまで放映されるなど前代未聞のプライバシー侵害が起きました。
そんな中、TBSラジオの「発信型」ニュース番組『荻上チキ・Session-22』のパーソナリティを務める評論家の荻上チキさんと、薬物依存症の専門医である松本俊彦医師(国立精神・神経医療研究センター)が問題意識を共有。
番組内で関係者が語りつつ「薬物報道ガイドライン」を練り上げることになったのです。
2017年1月17日の番組に出演したのは、松本医師と、「ダルク女性ハウス」代表の上岡陽江さん、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さん。いずれも「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」の発起人です。
番組ではまず、松本医師が議論の口火を切りました。
「報道のたびに白い粉や注射器のイメージ映像が出る。依存症の人はそれを目にすると欲求が刺激される。だから、著名人が逮捕されて報道が激化するたびに、患者さんが薬物を再使用することが続発していて、回復しようとがんばっている人の足を報道が引っ張っているんじゃないか」
荻上チキ・Session-22「薬物報道ガイドラインを作ろう!」荻上チキ×松本俊彦×上岡陽江×田中紀子
危ない理由
現状の報道にどんなリスクがあるのでしょうか?
番組内容をもとに整理してみます。
若いハイリスク層への影響
虐待などによる痛みを抱えた子どもは、危険なものにひかれる。
白い粉や注射器などのイメージ画像、恐ろしげな扱いで薬物への関心が増す。
依存している人への影響
犯罪者として糾弾し、反省を迫り、プライバシーをさらす報道によって、助けを求めるチャンスを奪う。治療・回復の場につながるのを遅らせてしまう。
回復を始めた人への影響
報道が欲求を刺激し、再発のきっかけとなる。
また、自分たちは社会に忌み嫌われているとの思いを抱かせ、回復・社会参加の意欲をそぐ。
家族への影響
社会的制裁を受ける不安、私生活を侵害される不安、依存症者を自分の責任で立ち直らせなければというプレッシャーによって孤立させる。
一般への影響
依存症に対する誤解と偏見を助長する。