アルコール・薬物・その他の依存問題を予防し、回復を応援する社会を作るNPO法人「ASK(アスク)」の情報発信サイト

薬物乱用・依存

改訂版 薬物報道ガイドライン(2024/11/20)

薬物報道ガイドライン Ver.3(2024/11/20)

【望ましいこと】

  • 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
  • 依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
  • 相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
  • 友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
  • 「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
  • 薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
  • 依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
  • 依存症の背景には貧困・いじめ・虐待・孤立など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

【避けるべきこと】

  • 「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
  • 薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
  • 「人間やめますか」のように、薬物使用者の人格を否定するような表現は用いないこと
  • 薬物使用が発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
  • 「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
  • ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、待ち構えて移送シーンや家宅捜査の場面を映す、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
  • 「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
  • 薬物問題や依存症についての認識を持たずに、懲罰的・非科学的な発言をするタレントや著名人を、コメンテーターとして用いないこと
  • 捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
  • 家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

【その後の報道状況を踏まえて、留意してほしいこと】

  • 実名・匿名の選択は、回復・社会復帰の観点から最大限、慎重に検討すること。特に、ネット記事はデジタルタトゥーとなり、半永久的に社会復帰の妨げになることから、特段の慎重さを要する
  • 一度でも使用したら依存症になり、破滅するといった非科学的な脅しを行わないこと
  • 薬物使用者の人格を否定する報道が、社会的スティグマやバッシングを助長することに留意すること
  • 現在、各地で依存症回復施設の排斥運動が起きている中、薬物報道が、施設への相談・回復者の利用・社会復帰支援を妨げる原因となりうることに留意すること
  • 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が2023年に発表した、個人の薬物使用と所持は緊急に非犯罪化されるべきとの国連専門家による声明に留意すること※

 

※声明では「犯罪化は医療サービスへのアクセスへの重大な障壁となり、その他の人権侵害をもたらす」として刑法や行政制裁のもたらす悪影響について言及。国際社会に対し、個人使用目的の薬物使用と所持は緊急に非犯罪化されるべきであるとし、違法薬物犯罪の扱いについて処罰を支援に置き換え、人権を尊重・保護する政策を推進することを求めている。

原文:https://www.ohchr.org/en/press-releases/2023/06/un-experts-call-end-global-war-drugs

日本語訳ページ:https://izon-hodo.net/2024/12/post-316/

なお、非犯罪化は、少量の個人使用は違法ではあるが処罰せず支援を行なうことで、合法化とは異なる。

依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク

発起人(50音順)
今成 知美 NPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)代表
大嶋 栄子 NPO法人リカバリー代表/精神保健福祉士・博士(社会福祉学)
上岡 陽江 NPO法人ダルク女性ハウス代表/精神保健福祉士
斎藤 環 筑波大学医学医療系社会精神保健学 名誉教授/精神科医
佐原 まち子 一般社団法人WITH医療福祉実践研究所 代表理事/医療ソーシャルワーカー
田中 紀子 公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表
信田 さよ子 公認心理師・臨床心理士
樋口 進 国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・WHO物質使用・嗜癖行動研究研修協力センター長/精神科医
松本 俊彦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部 部長/精神科医
森田 展彰 筑波大学 医学医療系 社会精神保健学 准教授/精神科医
横川 江美子 NPO法人全国薬物依存症者家族会連合会 理事長
米山 奈奈子 秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻 教授/看護師・保健師

外部協力者
荻上 チキ 評論家・ラジオパーソナリティ

ネットワーク事務局
https://izon-hodo.net/