季刊『Be!』の前身、『アルコール・シンドローム』42号に掲載した体験から、抜粋してご紹介します。
アルコール
(若年で発症した人の体験)
酒をおぼえた頃から、自分だけ人と違う飲み方をしているのはわかっていた。
ガンガン飲んで、その場で寝てしまう。
みんなと飲みに行って、歩いて帰ったことがないもん。
必ず誰かがおぶって帰って、次の日に「おまえはこんなことした、あんなことした」と言われる。だけどぜんぜん記憶がない。
めんどうなので一人で飲むようになった。
1杯、2杯、3杯、4杯とピッチが速くなって1時間もしないうちに勝負がついてた。
昼間に酒が切れると手が震えるようになった。
でも仕事はがんばった。
仕事中に手が震えているのが誰かにバレるんじゃないかと、すごく不安で、焦りながら手の震えと戦う毎日。
ひどい二日酔いで、それでもなんとか仕事して、今日こそ酒を抜こうと思うわけ。
夜中に目が覚めると、ものすごい汗。
眠れなくて、寝返り打って、あの焦燥感はすごかった。
四畳半に住んでたんだけど、天井や壁が迫ってきて押しつぶされるような恐怖があった。
もう酒をやめたい。
バカにした奴を見返してやる。
そう思うのに、やめられない。
連続飲酒になって、飲んでうつらうつら、覚めるとすぐ飲む。
わけがわからないうちに入院させられた。
二度目の入院で酒を切ることができた。
長年ゆっくり飲んで依存症になった人は、長年かけて周囲をこわしてきたでしょ。
オレなんか一直線で、こわしたものは少ないけど、作ってきたものもない。
飲んでるとき、恋愛も何もできないでしょ。
今、これからの生き方を考えているところ。
睡眠薬・抗不安薬
(アルコール依存症からの回復途上で、処方薬に依存した人の体験)
酒をやめて6年目に父親が亡くなったのがきっかけで、精神的に不安定になり、母が使っていた睡眠薬をもらって飲みました。
それが依存の始まりでした。
1回2錠のところを、ちょっと多く飲むと酔うんですよ。眠くなる薬のはずが、私の場合は眠くならずに、アルコールと同じように感情がハイになって、心配ごとを忘れて愉快でいられるんです。
同じ酔いがほしくなって、精神科に行って「寝られない」と訴えました。
「アルコール依存症で、7年やめている。父が亡くなってからよく眠れない」と、半分は本当のことです。
医者は平気でくれました。
効かないと言っては量を増やしてもらい、最後は2週間分を3日で飲んでいました。
酒のときと同じで、夕方になると薬を飲みたくて落ち着かない。
違いは酒ほど簡単に手に入らないことです。
飲んだ量をノートにつけてました。
7時に安定剤3錠、8時に眠剤2日分……
ある日、11時半まで書いてあって、あとは判読できない。
気づいたのが翌日の夕方です。
ガラスは割れてる、カレーはぶちまけてある、半日以上過ぎていました。
妻の訴えで、医者もおかしいと気づいて、薬がもらえなくなりました。
1週間、離脱症状で苦しみました。
熱が出て、心臓がドクドク、身体がガタガタ震えました。
誰もが眠剤でこんなふうになるわけじゃないはず。
自分は依存しやすい体質なのかなと思います。
今でも、鎮痛剤や風邪薬なども、なるべく飲まないようにしています。
心のどこかに「もう少し飲めば酔えるかな」という気持ちがあるのを知っているから。
薬への依存と向き合ってから、自助グループに一生けんめいになりました。
仲間といるのが一番楽だとわかったから。
せきどめ薬
(10代でせきどめ薬にはまった人の体験)
高校の修学旅行で、友だちと一緒に遊び半分でせきどめを試しました。
気づいたら、違う場所にいる。次に気づいたら、新幹線の中……。
わけがわからなくて、こわかった。
それがなぜかくせになって、薬代がほしくて友だちと部室荒らしをやって退学です。
なんとかして大検をとって大学に行かなきゃと思いました。
昼間は万引きや置き引きで薬代を稼ぐ。夜はずっと勉強です。
「大学に入ったら薬はやめよう。でも今は、薬がないと勉強もできない」と思ってました。
大学一年生を5回やりました。
薬が楽しいのは20歳までだったなあ。
あとは、生きるために飲まずにいられなかった。
ないと動けない。トイレにも行けない。頭痛がして、だるくて起きられない。
盗みで捕まって、親に「ダルク」に連れて来られたけど、やめる気なかったです。
やめようと百回ぐらい思ったけど、そのつど失敗しましたから。
もう夢も希望もない。
一生この薬で生きていくのかと。
精神病院で退学届を書き、二度目の入院で初めて薬を切りました。
6年ぶりだったから、一気に症状が襲ってひどい状態で、意識はもうろうとしてました。
気づいたら、自分にはもう何も残っていなかった。
友人はいない。
親の信頼はとっくにない。
彼女にも見限られた。
ゲロ吐きながら、うんこもらしながら、みじめな自分が悲しかった。
薬がないから逃げ場がない。
あとは泣くしかない。
1週間泣きっぱなしでした。
そこから、ダルクでの回復が始まりました。
覚せい剤
(10代で覚せい剤を使い始めた人の体験)
高校を中退して、新宿でヤクザの事務所に出入りしてた。
17歳ぐらいかな。
シンナーの密売をやるようになって、あるとき「ちょっと来い」と幹部の人に呼ばれた。
そしたら目の前で粉を溶かしてるんだよね。
「おまえ、やったことあるんだろ」
これ覚せい剤でしょ、まずいよ……。
「昔ちょっとやったことあるけど、今やめてるからいいです」
なんて、やったことないのに嘘ついた。
「そんなこと言ってないでイケよー。作っちゃったんだから」
髪の毛が逆立って、あの感じは言葉にならない。
それまでの人生の中で一番ハイになった瞬間だったなあ。
幻覚が出るようになったのは、逮捕されてからです。
3回逮捕されたけど、やめる気はなかった。
幻覚は全部「警察関係」で、ノックの音が聞こえて、覗くと警察が立っている。
友だちに電話しまくって「警察だ!」って騒いだので、アイツは危ないぞと言われるようになった。
「今日は幻覚出ないでくれよ」と祈るような気持ちで打ってた。
友だちには「オレは幻覚も出ないし、食事もできるし、眠れる」とか言ってるわけ。
でも一人になると毛布かぶって震えてる。
1ヵ月に5分ぐらい「やめたい」と思うんだけど、思うそばから使ってた。
新聞でも「警察」とか「麻薬」という文字だけパッと目に入ってくる。
親がそのへんにおいた「ダルク」のパンフレットも、見たら負けだと思うんだけど、どうしても目がいく。
ダルクのミーティングで、「こいつらも本当は薬を使いたいんだ」ってわかって、安心したよ。すぐに逃げ帰って薬漬けになったけど、二度目にダルクに行ったときは「あの人たちに会いに行こう」と思った。
それから何度かスリップしたけど、今は薬が止まってる。
マリファナ・ヘロインなど
(マリファナが入り口となって、さまざまな薬物に依存した人の体験)
きっかけはバンドの仲間からすすめられたこと。
ハイになれる、楽しくなる……あの頃はそう思っていたよ。
今考えると、それまでがしんどかったんじゃないかな。
心がギチギチになっていたんだ。
そこへ、マリファナが「心地よいすきま」を作ってくれた。
マリファナは軽いドラッグだって言われるけど、僕はそうは思わない。
特にヘビーでもないけど、そうだなあ、ドラッグの中でも特殊って感じ。
違う回路でものが見える。きれいだとおもわなかったものがきれいに見える。
ものの見方は、ひとつだけじゃない。それがわかった。
薬を使わなくても、そのことがわかる方法は他にもあるんだと思うけど、僕はマリファナやるまで、ひとつの見方しかなかったから。
だけど一度捕まってから、効き方が変わってきたね。
隠れて吸うようになったし、バッド・トリップするようになった。
楽しめなくなったんだ。
それで次の薬を探した。
ヘロインを最初に注射したときは、気持ち悪くなって吐いた。
吐いた後で気持ちよくなって、「もう何もいらない」という状態が半日ぐらい続いたかな。
使っているうちに最初の強烈な感じはなくなった。あれば日常が送れる、使わないと体がだるくて熱っぽくてどうしようもない。
3ヵ月使い続けたあと、売ってくれていた人が「もうないよ」って言う。
ちょっと待ってよー。
禁断で1週間苦しんだ。
熱は出るし、ガタガタ震える、下痢して、頭が痛くて、節々が痛くて、眠れない。
脂汗で布団はびっしょりで、うなりながらひっくり返ってた。
ひたすら時間が過ぎるのを待つだけ。
「もう二度とヘロインは使わない」と思った。
しばらくして「あるよ」と電話がかかって、さっそく楽器を質に入れて買いに行ったよ。
2~3ヵ月やり続けては、強制的に切らされる繰り返し。
禁断の後半に来るうつ状態がたまらなくて、覚せい剤を使うようになったんだ。
シャブ中なんかダサイから、マリファナやヘロインを使ってたのに、その僕が気づいてみたら、トイレで隠れて覚せい剤を打っていた。
やめた今?
物足りないけど、楽だね。
今まで日常がカラーテレビだったのが、白黒になったみたいな物足りなさ。
だけど、もういいよ。
シンナー
(10代で一度体験したシンナーに、社会人になってからのストレスではまった人の体験)
高校のとき、友だちに「おもしろいものがある」と言われて、やりたくもなかったけど、断わる理由がなかった。
ぼうっとして、どこかでカンカンと警笛が鳴っているような、今までに味わったことのない感じでした。
その一度だけで、まじめに高校も大学も出て、就職して半年。そこで初めて挫折しました。
人間関係がうまくいかなくて、出社拒否です。
まわりに励まされるほど「オレはダメだ」と落ち込みました。
心身症と診断されて3ヵ月の病休をもらいましたが、復職しかけた頃がつらくて……ふとシンナーをやってみたんです。
「これだ」と思いましたね。自分を受け入れてくれる世界がそこにあった。
現実の世界とは別の世界が開けたんです。
シンナーは他のドラッグと、そこが違う。
覚せい剤とかって、現実をうまくやるために使ったりするでしょ。「これがあればうまくいく」みたいな。
シンナーは現実じゃない。実際、シンナー吸ってる間はなにもできませんよ。
数ヵ月で幻覚が出て、吸い始めたとたんに人が現われる。
天皇陛下が会いに来たりね。
でもやがて、ただブラックアウトしてるだけになって、使っても苦しい、やめても苦しい。
いったん頂点を味わったら、あとは求めても得られない。
現実だけじゃなく、シンナーの世界もダメになった。
やめた今でも、イヤなことから逃げたくなる気持ちは変わらない。
自分が対処できないことからは逃げたっていいと思う。
でも現実そのものから逃げだすことは考えなくなった。
今できないことは、これから現実の中で、対処する力をつけていけばいいんだから。