親から子ども、そして孫の代へと、複数の世代にわたって同じような問題が繰り返されることを「世代連鎖」といいます。
どんなことが起きるのか?
アルコール依存症の親をもつ人は、そうでない人よりも、大人になってから依存症になっている割合が高いことがわかっています。
これには、「飲める体質」「酔いの快感を感じやすい体質」といった遺伝的な背景もあります。
けれど遺伝だけでは説明できないことも起きています。
アルコール依存症の親のもとで育った女性が、大人になってからなぜかアルコール依存症者の配偶者となっていたり、ギャンブル依存症の夫のもとで苦労していた、ということがよくあるのです。
父親が母親に暴力をふるうのを目撃しながら育った(面前DVといいます)息子が、大人になってからDV加害者になっていたという連鎖も、よくみられます。
また、こんなケースも少なくありません。
依存症家庭で育った人が「親のようにはなるまい」と決意して理想の家庭をめざし、自分は酒を飲まずギャンブルもやらずに、「いい親」となります。ところがその「いい親」のもとで育てられた子どもは、「この家は息が詰まる」と感じ、大人になってからアルコールや薬物に依存するようになっていた…。
連鎖するものの正体は、いったい何なのでしょうか?
背景には何がある?
原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子氏は、「学習」や「トラウマ」をキーワードに語っています。
「目の前で父母が言い争っている。争いの声がどんどん高くなっていく。そこで父が暴力をふるった。とたんに母が黙った。……こういう場面を、小さい頃に何度も見て学習するわけです。物事はこう決着するんだ、と無意識のうちに植えこまれる」
「男性は父から暴力を学習しやすく、女性は母から世話焼きを学習しやすいのでしょう。世話やケアは、女性が他者から承認される最強の行為ですから」
「同時に、親の暴力を目撃することは深刻なトラウマとなることがわかっています。トラウマ被害を受けて抑圧された感情は、何かのきっかけで攻撃性に転じることがあります。男性の場合は攻撃が外に向かいやすいですが、女性は自分に向かいやすく、自傷行為や摂食障害にも結びつきます」
「アルコールについては、代謝能力や酩酊のしかたなど、遺伝的な背景が大きいですが、かといってその息子がアルコールさえ飲まなければ何の連鎖も起きないかというと、そうとは限らない。育つ過程で父母の争いなどを通じて、さまざまな学習をしたりトラウマを受けているわけだから」
※季刊『Be!』増刊号No.25『脱! 世代連鎖』より、抜粋・改編しています。
連鎖を防ぐため、できること
では、子どもへの問題の連鎖を防ぐため、親ができることとは?
◎事実を伝える
たとえば、親が依存症という病気であること、子どもには責任はないこと、この病気は回復が可能であること…などを、子どもの年齢に応じて、わかりやすい言葉で伝えます。
◎家庭を健康なものにする
依存症者の状況に関わらず、大人の責任において、子どもにとって安心・安全で、無理をせず「子どもらしくいる」ことが許される環境を整えます。
◎生きるのが楽な考え方や行動を教える
感情を感じてよいこと、自分の思いを健康的に表現する方法があること、人を信じてよいことなどを、子どもに伝えます。
これは大人自身が回復のプロセスを歩むことで初めて可能になります。
ですから大人のあなた自身が、休みをとること、楽しむこと、自分の気持ちを表現すること、自分をケアする方法を学ぶこと、自分の中にある力に気づくことが、大切なのです。
それが次の世代への連鎖を食い止めます。
※季刊『Be!』増刊号No.25『脱! 世代連鎖』より、抜粋・改編しています。