2013年12月成立、2014年5月20日施行
この法律ができた理由
飲酒運転で人を死傷させた場合、「危険運転致死傷罪」が適用されると、1年以上20年以下の懲役(死亡のとき)または15年以下の懲役(負傷のとき)だが、危険運転の立証ができずに「自動車運転過失致死傷罪」が適用させると7年以下の懲役・禁錮か100万円以下の罰金――こうした量刑のギャップが長らく問題となってきました。
人身事故を起こしたあと、被害者を救おうとせずに逃げてしまえば、アルコールも抜けて証拠がなくなり罪が軽くなるという「逃げ得」も生じていました。
そこで、自動車の運転による死傷事件に対し、その悪質性や危険性に応じた処罰ができるよう、過去何度もの改正を重ねてきた刑法の関連部分を独立した法律にまとめた上で、罰則の整備が行なわれました。
飲酒運転に関わる内容は、以下の部分です。
危険運転致死傷
(第2条=従来)
刑法で定められていた「危険運転致死傷罪」がそのまま新法に引っ越した形。人を死亡させると懲役1年以上20年以下、負傷させると懲役15年以下。
(第3条=新設)……いわゆる「新たな危険運転致死傷罪」
従来の危険運転致死傷罪は「正常な運転が困難な状態」であることを立証する必要があるのが適用のネックとなっていた。第3条ではそのハードルを低くして「正常な運転に支障がある状態」としており、飲酒運転はこれに該当するものと判断できる。
人を死亡させた場合は懲役15年以下、負傷させると懲役12年以下。
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱(第4条 新設)
飲酒運転事故の発覚を免れるため、ひき逃げや重ね飲みをした場合、12年以下の懲役。道路交通法の「救護義務違反」との併合罪だと、18年以下の懲役となる。
過失運転致死傷(第5条 従来)
刑法にあった「自動車運転過失致死傷罪」の罪名が変更になったもの。酒気帯びの基準未満や、前方不注意・後方確認義務違反など。7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金。
無免許運転による加重(第6条 新設)
以上の罪を犯した人が無免許運転だと、刑罰の加重が行なわれる。たとえば、罪を免れる目的のひき逃げは懲役12年以下のところ、無免許も加わると懲役15年以下となる。
新たな危険運転致死傷罪の適用範囲は?
法務省によるQ&Aでは、次のように説明しています。
*まず、従来の危険運転致死傷罪の適用要件である
「正常な運転が困難な状態」について……
例えば,アルコールの場合は,酔いのために,前方をしっかり見て運転することが難しかったり,自分が思ったとおりにハンドルやブレーキなどを操作することが難しかったりする場合などです。
*次に、新たな危険運転致死傷罪の
「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」について……
例えば,アルコールの場合,道路交通法の酒気帯び運転罪になる程度のアルコールが体内にある状態であれば,通常は当たります。
つまり、これまでは酒気帯びで人身事故を起こしても危険運転の立証ができずに「過失」とされてきたケースがかなりありましたが、今後は酒気帯びであれば通常、危険運転致死傷罪に該当するということです。
運転への支障の程度に応じ、従来の<懲役1年以上20年以下、負傷させると懲役15年以下>にあたるか、新たな<懲役15年以下、負傷させると懲役12年以下>にあたるかが判断されることになります。
Q&Aは下記にある法務省のサイトをご覧ください。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に関するQ&A
飲酒運転による死傷事故 厳罰化の流れ
2001年まで | 2001年 | 2004年 | 2007年 | 2013年 |
業務上過失致死傷 人を死亡させた場合…懲役5年以下 人を負傷させた場合…懲役3年以下 |
【新設】 自動車運転過失致死傷 死亡…懲役・禁固7年以下 負傷…懲役・禁固7年以下 |
【新法】 過失運転致死傷 死亡…懲役・禁固7年以下 負傷…懲役・禁固7年以下 危険運転致死傷(従来) 死亡…懲役20年以下 負傷…懲役15年以下 危険運転致死傷(新設) 死亡…懲役15年以下 負傷…懲役12年以下 |
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【新設】 危険運転致死傷 死亡… 懲役15年以下 負傷… 懲役10年以下 |
【改正】 死亡… 懲役20年以下 負傷… 懲役15年以下 |
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過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱(飲酒運転の発覚を免れるためのひき逃げや重ね飲み) 12年以下の懲役 無免許運転による加重 |