つながることで、解決がはじまる。
厚生労働省主催の啓発フォーラムが、2017年11月12日(日)、東京・大手町で開催されました。
基本法施行から4回目、基本法事務局が内閣府から厚生労働省に移行して初めての啓発週間。厚労省と民間団体が業者を介さずに直接連携するモデルケースとして、ASKが企画運営の業務委託を受けました。
総合テーマは「つながることで、解決がはじまる」。
関係省庁がつながる、当事者や家族が仲間とつながる、行政と民間がつながる、地域で多機関がつながる……さまざまなつながりこそがアルコール関連問題を解決に導くカギだからです。
プログラムは、予防シンポジウム「若い女性とアルコール」、当事者アピール「アルコール依存症は回復する」、実践トーク「合言葉は地域連携」の3部構成。これらは、アルコール健康障害対策推進基本計画の重点課題でもあります。
ホワイエでは、自助グループや民間団体による展示等を行ないました。
会場は200名を超える参加者でほぼぎっしり、行政・医療・当事者などの関係者が多く、身を乗り出して熱心に聞き入る人々の姿が印象的でした。アンケートも「大変よかった」「よかった」が94%、88%がフォーラムを通して「アルコール関連問題に関する理解が深まった」と回答しています。一般からの参加が少なかったのが今後の課題です。
実施日時:平成29年11月12日(日)12時30分開場 13時開始 17時終了
実施場所:三井住友銀行東館SMBCホール ライジング・スクエア 3階ホール(東京・大手町)
主催:厚生労働省
後援:内閣府/法務省/国税庁/文部科学省/警察庁/国土交通省/東京都
朝日新聞社/産経新聞社/読売新聞社/日本経済新聞社/毎日新聞社/東京新聞・東京中日スポーツ
公益社団法人 日本医師会/公益社団法人 日本看護協会/全国保健所長会/一般社団法人 日本ソーシャルワーク教育学校連盟/社会福祉法人 全国社会福祉協議会/公益社団法人 アルコール健康医学協会
酒類業中央団体連絡協議会(日本酒造組合中央会/日本蒸留酒酒造組合/ビール酒造組合/日本洋酒酒造組合/日本ワイナリー協会/全国卸売酒販組合中央会/全国小売酒販組合中央会/日本洋酒輸入協会/全国地ビール醸造者協議会)
アル法ネット(特定非営利活動法人 ASK/アルコール関連問題学会東海北陸地方会/アルコール保健医療と地域ネットワーク研究会(アル・ネット)/沖縄ANDOGネットワーク/関西アルコール関連問題学会/九州アルコール関連問題学会/公益社団法人 全日本断酒連盟/中国四国アルコール関連問題学会/東北アルコール関連問題研究会/日本アディクション看護学会/日本アルコール看護研究会/一般社団法人 日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会/日本アルコール・アディクション医学会/日本アルコール関連問題学会/公益社団法人 日本医療社会福祉協会/公益社団法人 日本社会福祉士会/公益社団法人 日本精神保健福祉士協会/一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会)
アルコール・薬物施設連絡会/公益財団法人日本キリスト教婦人矯風会
プログラム
開会の挨拶
厚生労働大臣 代読 障害保健福祉部長 宮嵜 雅則
PART1 予防シンポジウム<若い女性とアルコール>
知ってほしい「女性のリスク」と「胎児への影響」
樋口 進 独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長
「飲酒率をみると、女性がものすごい勢いで男性を追いかけて、2008年、ついに追い越しました」と、調査をもとに語ったのは樋口進医師。特に十代後半からの女性の飲酒増加により、依存症や妊娠中の飲酒によるFAS(胎児性アルコール症候群)のリスクを警告しました。
「かつて、日本ではFAS児の出生は1万人に1人、アメリカでは千人に1人と言われていました。けれど調査法が洗練されたことで、アメリカの都市部で千人に6~9人というデータが出ています。日本でも調査が必要です」
若い女性の飲酒実態~大学生の調査から
吉本 尚 筑波大学医学医療系地域医療教育学講師
大学生の飲酒実態を調査した筑波大学講師の吉本尚医師も、「ビンジ飲酒(短時間の多量飲酒)とケガとの関連が高いこと」「自分の飲酒量やペースが危険であることを認識していない傾向が、特に女子学生で顕著なこと」を説明。こうした問題の背景のひとつに「飲み放題」のシステムを挙げました。
大学生が始めた「ごちそう+ドリンク2杯」の〝ごち会″とは?
ごち会(東成樹・長田悠希)
続いて登場したのが、「ごち会」。大学生になって初めての飲み会で、ろくな食べ物が提供されない飲み放題のため「お腹をすかせて帰った」経験から、ごちそう+ドリンク2杯をセットにした「ごち会」を考えついたと、創設者の東さん。学生たちがお店をめぐって、飲み放題コースならぬ「ごちそうコース」を提案し、協力店をホームページで公開しています。
スライドに映し出された豪華なコースが3000円足らずと聞いて、会場は驚き。
「今日は飲み会にする? ごち会にする? という選択肢が広まれば、イッキ飲みはなくなります。全国に6000店舗ほしい」という呼びかけが、参加者に熱く響きました。
PART2 当事者アピール<アルコール依存症は回復する>
詩の朗読パフォーマンス
月乃光司 こわれ者の祭典主宰/アルコール依存症当事者
PART2では当事者が登場。トップを飾るのは月乃光司さんによる詩の朗読、というか絶叫です。月乃さんは主宰する「こわれ者の祭典」を通じ、アルコール依存だけでなく、摂食障害、自傷、さまざまな障害をもつ人や性的マイノリティなど、「生きることに苦しみながらも共に生きていく仲間」たちとつながってきました。
それを表現した「仲間」と題した詩に続けて、座間での事件に触れたメッセージも。
「死にたい、という言葉は、本当に死にたいのではなく、苦しいという意味。人は最後の最後まで誰かと会いたい、話を聞いてもらいたいのだ。ツイッターに死にたいと書く前に、『ともに生きていく仲間』とつながってほしい」
自助グループってどうやるの? 断酒会の模擬例会
東京断酒新生会
次は、東京断酒新生会による模擬例会です。
救急から断酒会につながった男性、児童相談所を経て医師に断酒会を勧められた女性など4人の当事者に続き、家族3人の体験談です。「離婚する勇気がなくて、心の中で離婚しました」という家族は、その後に病院につながったことで始まった変化を語りました。会場の参加者は熱心に聴き入ります。
【休憩時間】リカバリーパレード「回復の祭典」コーラス
続いて、青いTシャツ姿の人々がステージへ。リカバリーパレード「回復の祭典」のコーラス隊です。オリジナル曲の「リカパレロック(パレードに行こう)」「いいだぜ」……会場に歌声とギターの伴奏が響きました。続けて会場も一緒に「翼をください」を合唱。まさに回復の喜びとパワーを伝える時間でした。
PART3 実践トーク<合言葉は〝地域連携″> 早期発見・介入・回復支援
生活を支えるコミュニティソーシャルワーカーと依存症
勝部麗子 豊中市社会福祉協議会福祉推進室長(コミュニティソーシャルワーカー)
救急現場だからできる依存症介入と地域連携
伊藤秀樹 三重県立総合医療センター救命救急センター 副センタ―長(救急医)
四日市アルコールと健康を考えるネットワーク
保健所ハブのアルコール地域連携モデル
杉浦小百合 愛知県衣浦東部保健所課長補佐(保健師)
最後の実践トークでは、地域連携の中でアルコール関連問題に取り組んでいる、ソーシャルワーカー、救急医、保健師の3名が登場。
「福祉の分野は高齢・障害・児童・生活保護などに分かれていますが、実際はストライクゾーンにはまらないケースが多いのです」
トップバッターの大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さんが話します。
たとえばDVの相談とアルコールの相談。2つの根っこがつながっていても、入り口が違うことで扱う問題が限られてしまい、相談者を右往左往させることになります。
さらにアルコール問題があると近隣からも「困った人」として排除されやすい……そんな1人のケースへの支援を語りつつ、こんな言葉も。
「困難を抱えている人ほど、相談に来ないし、情報が届かない」
「貧困問題というのは、経済的貧困だけでなく、人間関係の貧困もある。アルコールは社会的孤立の最大の原因の一つ。そこから人間関係をどう取り戻していくかが肝腎」
次に三重県立総合医療センター救急救命センター副センター腸の伊藤秀樹医師が、救急現場での介入について説明しました。
「そのときだけなんとかすればいい、というやり方では、アルコールの患者さんは繰り返しやって来たり、あとで大きな問題を起こします」
専門医療との連携から、次から次へ関係機関とつながっていったことを語りました。
地域連携のモデルである愛知県衣浦東部保健所からは、保健師の杉浦小百合さんが取り組みを報告。
「警察から紹介されて、家族が相談にいらしたとき、お話を聞きながらまず、この場合はどこと連携したらいいんだろう、と考えます」
この問題は一人で抱えるのは重過ぎる。援助者自身のためにも、連携が必要との発言も。
フォーラム参加者のお声から
【行政関係者】
- 医療側・当事者側・行政・福祉の話がつながって聞けたことがよかった。印象的だったのは「お酒を飲んでいる時だけは、生きづらさから解放された」という当事者の言葉。飲酒行動の背景にある生きづらさに目を向ける必要があると、改めて実感した。(20代男性・東京)
- 女性の飲酒問題について、高校生・大学生への教育が必要であると思いました。アルコールを治療できる医療機関が少ないので、家族も行政も困っています。医療機関の整備が必要です。(50代女性・千葉)
- 先進地の取り組みを知ることは有意義でした。依存症は回復できる病だと多くの人が知ること、早期に支援につながることが必要と改めて感じました。(50代女性・茨城)
- 印象的だったのは、月乃さんの詩の朗読と叫び。特に座間事件に絡めて、自殺志願者の「死にたい」は「助けて」の言い換えなんだと語ったところ。実は、自殺なんか志願してないんだということにみんな気づいてほしい。内容が充実していた。来年はもっと一般の人に来てもらいたい。(40代男性・東京)
- さまざまな立場の方が多面的なアルコール問題について語り、日常業務に即、活かせる。印象的だった言葉は「仲間」。月乃さんの詩にも断酒会の方々の話にもこの言葉が出てきた。相談機関どうしもがっちりつながっていく必要があると、心の底から感じました。(40代男性・千葉)
- 一般の人が依存症について理解していないと、困っている依存症の人々が助けを求められないという言葉が心に残った。日本の現状がアルコール依存症を生み出しやすいことについて、国全体で理解していくべき。そのため啓発活動を続けていくしかないと思います。(30代女性・大阪)
【医療関係者】
- 月乃さんの詩の朗読は、人の苦悩がほとばしっていた。きずなの大切さが伝わってきた。(60代女性・千葉)
- 「ごち会」の取り組み、同世代の方々がこういう取り組みをやられているとは知らなかった。ステキだと思った。(20代女性・東京)
- 断酒会の例会に出たことはないが、模擬例会で話が聞けてよかった。病気と認めることが一歩なんだと感じた。(40代女性・茨城)
- 印象的だったのは、地域連携。東京は資源は多いが、連携という点では、全国と比べて形になりにくいと感じています。(40代男性・東京)
【福祉関係者】
- 詩の朗読や、断酒会の方の話を聴くことができてよかった。印象に残ったのは、アルコール依存は病気である、回復するという言葉。医師の養成カリキュラムに、アルコール依存やアディクションをもっと盛り込んでいただきたい。アルコールのCM規制をもっと厳しくしてはどうでしょうか。たとえば、早朝の通勤電車でビール会社のCMが流れているのは問題だと思います。(50代女性・神奈川)
- さまざまな分野の方のお話を少しずつ伺えたことが新鮮でした。一番つらいのは、つながれない、つながってくれない段階だと思います。自助グループに適応できない事例への対応など、選択肢が多いことが大切。病院と行政、自助グループの連携強化。内臓疾患での繰り返し入院を見逃さない。(40代女性・東京)
【教育関係者】
- 飲酒問題の啓発について、自分がやっている活動にいきづまりを感じていたが、新たな視点やヒントをもらい、今後のことを考えてみようと思った。(40代女性・東京)
- 患者のためだけでなく、専門職自身のためにつながるという話は参考になりました。盛りだくさんの内容で、いろいろなアイデアをいただきました。若い女性への啓発活動が重要ということがよく理解できました。ディスカッションとか懇親会みたいな時間があると交流が深まると思いました。(50代女性・埼玉)
【当事者】
- ふだん自助グループの中にいるだけではアクセスできない話題に多く触れられた。「ごち会」の発想に感心しました。飲みたいわけでもないのに、社会的な圧力によって飲んでいる人たちがかなりいるようだと知った。自助グループの一員として、できることを改めて考えたいと思いました。(50代男性・神奈川)
- 「ごち会」を選択肢の一つにするのがいい。我々の時代には先輩の「オレの酒が飲めないのか」という言葉が絶対だった。(60代男性・東京)
【家族】
- 学生が「ごち会」を作った話を初めて聞きました。イッキ飲みなど、完全になくなってほしいです。リカバリーパレードを見ることができてよかった。PART3で現場のご苦労や支援者の思いを知ることができて有意義でした。(50代女性・東京)
- この問題の複合性や複雑性、取り組みの難しさがよく勉強できた。特に地域連携は最もよかったテーマです。医療関係の教育過程でこういうイベントに参加する機会があると、若い関係者にも周知していただけるのではないかと思いました。(50代男性・東京)
- アルコール問題についてネット検索してフォーラムを知りました。勝部さんの「貧困は経済だけでなく人間関係の貧困。支援拒否しているのではなく、支援拒否されていると思わなければならない」という言葉が心に残りました。啓発週間がもっとメディアに取り上げられるよう、働きかけてほしい。自分にできることとして、ASKに入会します! SNSでも発信します!(40代女性・東京)
【一般】
- お酒が酔うための液体だという言葉。日々、おいしいお酒を数杯とおいしい食事を楽しんでいる私にとって、さびしい言葉でした。多量飲酒による健康への害、家庭内の問題など、社会で考えることができようになるといいと思います。(50代女性・東京)
- 厚生労働省のイベントなので、国の意見をもっと聞きたかった。(30代男性・東京)
- 印象的だった言葉は「なかま」。つながりが見えにくい社会になって、多様な問題が起きていると感じた。「なかま」だと声に出す大切さを認識した。(60代女性・東京)